7 TIPS FOR CBT
今すぐ保健指導に使える認知行動療法の7つのTips
AT First
はじめに
本ページでは、今すぐ保健指導に使える認知行動療法の7つのTipsを説明します。
また、最後には今回の保健指導プログラムやサイトを作成するにあたり参考にした書籍や、認知行動療法の理解を深めるための推薦図書も紹介していますので、ご興味のある方はぜひ読んでみてください。
TIP 01
協同的関係の大切さ
協同的な関係を作ることは、保健指導や健康相談における基本です。協同的な関係とは、指示する・されるの上下の関係ではなく、チームとなって問題に取り組む協同的な関係です。
面接初期の段階では、この関係作りを十分に意識しましょう。特に解決が困難な問題は、協同的関係ができていないと支援に結びつきません。
では、協同的な関係を作るにはどうしたらよいのでしょうか?協同的な関係を作るために重要なことは、相手に興味を持ち、話を良く聴き、気持ちに寄り添うことです。具体的には、対話の中で相手の感情を追い、すくい上げ、共感を示しましょう。
対話の裏側にある相手の感情をすくい上げるには、表情や言葉のトーンなどの非言語的なサインを手掛かりに推測しましょう。また、感情を的確に表現する言葉を知っておくと共感を伝えやすいので、そのような言葉を日々書き溜めておくと良いでしょう。共感を示すための気持ちを表現する言葉の例を参考にしてみてください。
また、協同的な関係を作るためは、“相談者に心理的な圧力をかけない”ようにしましょう。心理的に圧力をかけるとは、行動や考えを批判や無視する、相手の意見を聞かずにこちらの意見を主張する、ネガティブな感情をぶつける、正誤で評価するなどのことを言います。保健指導の場では、一方的に説明をする、答えをせかすなどのことも、心理的な圧力をかけることにつながります。また、めんどうくさそうな態度や威圧的な態度などのネガティブな非言語的なサインは、言葉以上に心理的な圧力をかけることになりますので注意しましょう。
協同的関係は認知行動療法においても非常に大切にされており、この関係性自体が相談者にとっての力になり問題解決が進んでいくこともあります。
TIP 02
対話と対話のプロセス
保健指導や相談は対話の中で行われますので、対話技術の習得は必須です。対話は強力なツールです。人は対話によって、情報をやり取りするだけでなく、考えを整理したり、感情を癒したりすることができます。
対話では、言葉だけではなく非言語的なサインでも多くの情報がやり取りされています。視線を合わせない、頻繁に時間を気にするなどの私たちの行動は相手にネガティブなメッセージとして伝わってしまいますので、注意しましょう。特に、優しい言葉をかけながらもチラチラ時計を見るなど、言葉と非言語的なサインが合っていないと不信感を与えてしまい、支援的な対話にはなりません。
また、保健指導や相談の時間は限られていますので、対話の流れを意識することが大切です。対話の流れは、本人を主体にするための質問→受容と共感→問題解決に向けた具体的な質問と進めていきます。
まずは、相談者の抱える問題やその問題に対してどのように思っているのかをオープンクエスチョンで尋ねてみましょう。相談者に話してもらうことによって、対話をより本人主体にすることができます。対話の主人公は相談者であることを忘れずに。
次に、本人の話をよく聴き、受け止め、共感を示し、協同的な関係をつくりましょう。私たちは忙しさのあまり、つい先を急いでしまいがちです。しかし、関係性の構築は問題解決に向かう最も重要なステップです。保健指導の場面でも、対象者は健診結果に対して様々な気持ちを感じていますので、一旦その気持ちを受け止めてから本題に移りましょう。一見遠回りに見えるかもしれませんが、このステップを大切にすることで保健指導の成功に近づきます。
そして、問題解決に向けた具体的な質問をしていきましょう。ケースの全体像をつかみ、問題解決の鍵がどこにあるのか探りながら対話を進めていきます(問題解決に向かうための具体的なコツは以降のTipsで紹介しています)。その際にも、相談者の主体性を大切に、それを導き出せるような支援を心掛けましょう。
TIP 03
質問の力を使おう
質問は目的別に2つのタイプがあります。1つは相手の情報を得るためのもの、もう1つは問題解決を目的としたものです。
情報を得るための質問は、主に相談者の抱えている問題を具体的に知るために用いますが、問題に対する相談者の思いを知るためにも使いましょう。どのような思いを持って今ここにいるのかを、質問の答えや非言語的なサインから読み取りましょう。一方、問題解決に向けた具体的な質問は相談者自身が問題解決に向かって気づきを得るために使います。
この質問は強い力を持っていて、思考の焦点を自己の内側に向けたり、思考を他の方向に向けることができます。
情報を得るための質問には、はいやいいえで答えられるクローズドクエスチョンだけでなく、相手が自由に回答できるオープンクエスチョンを混ぜて使いましょう。クローズドクエスチョンは簡潔で答えやすいのですが、それが続くと、相手は対話において受け身的な立場になってしまいます。一方、オープンクエスチョンは相手をより主体的にすることができます。聞き手にとっても相手の思いなどの多角的な情報が手に入ります。5W1Hを使った質問や、“どうしましたか?”“どうですか?”などを上手に使いましょう。
問題解決に向けた具体的な質問には、ソクラテス的質問を使ってみましょう。ソクラテス式質問とは、認知行動療法においても重視されている質問スタイルで、哲学者のソクラテスが弟子の疑問に対する命題を弟子自身の中から導き出すために用いていたことからこう呼ばれています。ぼんやりとしている考えを具体的にする、視点を移し視野を広げる、視野を広げて方策を探るなどに使うことができます。ソクラテス式質問の一例をあげています。
これらの質問は保健指導の他にも、相談の場で特に困難な問題に直面し心にブレーキがかかっている時に有効です。このようなときは、視野が狭くなり、解決策が見つからずに八方塞がりになっていることがありますので、質問によって気づきを得ることができます。
TIP 04
その問題はなぜ続いているのか?
相談や保健指導の場で私たちが遭遇するケースは、相談者が現実的な問題に直面している場合もあれば、考えや行動がブレーキとなって問題を持続させている場合もあります。
例えば、頭の中で問題を大きくしていたり、考えが邪魔をして先へ進めない状態になっていたり、ときには、問題解決に結びつかない非機能的な行動が悪循環をもたらし問題を深刻化させていたりなどです。
抱える問題の解決を妨げている要因がどこにあるのかによって、認知行動療法の技法を使い分けることができます。例えば、現実的な問題に直面して対処できずにいるときは “問題解決技法”、考えがブレーキになっているときは “認知再構成法” 、行動がブレーキになっているときは “行動活性化” と使い分けます。ケースによってはその他の心理学的技法も有効で、減量の保健指導では行動的アプローチも役立ちます。相談や保健指導は頻度や時間が限られているので、これらの技法のエッセンスをうまく取り入れてみましょう。
TIP 05
心を動かすために行動を使う
問題の解決に対して行動がブレーキになっている場合には、行動活性化という技法が役に立ちます。認知行動モデルでは、感情と行動は連動していると考えます。例えば、抑うつ的な気持ちになると行動は抑制され、家に閉じこもる、だらだらと携帯やテレビばかり見る、いつもより多くお酒を飲むなどの不健康な行動が増えます。そして、このような行動が増えると、快を感じる行動が減り、さらに抑うつ的になるといった悪循環になります。
この悪循環を断ち切るために、行動に着目したものが行動活性化です。気持ちが上向く行動を意識的にとることで、気分の改善を目指します。対話を通して、自身の行動と気分の関連や生じている悪循環に気付いてもらい、生活の中で少しでも気持ちが楽になる行動や、楽しみや達成感を感じる行動を増やしていけるように支援していきましょう。
行動活性化は、慢性疾患を持っていて抑うつ的な気分になっている人にも使えます。例えば、減量が必要だけれども抑うつ的な気分があり積極的に減量に取り組めない方には、消費カロリーは少なくても気持ちが軽くなる活動を生活に取り入れてもらうことから始めるのも一つの手です。抑うつ的な気分が軽減すると、自己効力感の高まりや減量に対する前向きな気持ちに繋がりやすくなります。
TIP 06
認知や考えに目を向ける
問題の解決に対して考えがブレーキになっている場合には、認知再構成法が役に立ちます。落ち込んだり不安になったりしているときには、出来事のひとつの側面だけを見てネガティブな決めつけをしていたり、頭の中で問題を実際以上に大きく捉えていたりしがちです。そのようなときに、その場で浮かんだ自分の考えだけにとらわれず、出来事や現実を多角的に捉え直し、様々な可能性を考慮しながら柔軟に考えることができれば、問題解決に向かっていくことができます。このような力をつけるための技法が認知再構成法です。
この技法のエッセンスは、相談や保健指導の場面でも使うことができ、特に、つらい気持ちの軽減に有効です。また、なかなか行動変容につながらない困難なケースの中には、自分自身に高すぎるハードルを設定して”完璧にこなさなければならない”とプレッシャーをかけていることや、“どうせまた失敗する”とネガティブな考えが邪魔をして前に進めなくなっているといったことがよくありますので、そのようなケースの支援においても役立ちます。
本人をつらくしている考えや、決めつけている考えに目を向けて、視野を広げる質問をしながら話し合ってみましょう。その場ですぐに考えが変わることは少ないかもしれませんが、後になって面接での言葉を思い出してくれるかもしれません。柔軟な考え方は体験や実感を通して身に付いていくものですので、話し合ったことを日常生活の中で試してもらえるように支援をしていきましょう。
エッセンスを上手に取り入れるためには、技法の原理を理解しておくことが必要です。この技法は活用できる場面が多いので、書籍や研修会などでぜひ学びを深めてください。
TIP 07
現実の問題は一度に全部は解決できない
直面している問題にうまく対処できずにいるときには、問題解決技法を用いてその問題を解決するための方策を考えていきましょう。
(考えがブレーキとなって問題と向き合えずにいる場合には、TIP 06を活用して問題に取り組める状態をつくってから、問題解決へ進みましょう。)
問題をたくさん抱えていると、一度に全てを解決して早く楽になりたいと思うものです。ですが、同時に複数のことを行おうとするとエネルギーや集中力が分散してなかなかうまくいきません。また、すべての問題が解決可能とは限りません。そこで、問題を整理し、優先順位をつけ、解決可能な問題に1つずつ対処をしていくことが重要になります。
取り組む問題を1つに絞ることで、より集中して取り組むことができるので、解決へと繋がりやすくなります。また、取り組む過程で習得した問題解決技法を次の問題でも活かすことができるので、結果的にはよりスムーズに全体の問題解決に向かっていくことができます。そのことを相談者と共有し、ひとつずつ着実に進めていけるよう支援しましょう。
私たちが相談を受ける問題の多くは、複雑でいくつかの問題が絡み合って起こっています。問題解決技法を用いることで、相談者が問題を整理し、解決策を考え、行動することを支援できます。
また、私たち自身も、問題は必ずしも一度に解決できるわけではないということを理解しておくと、困難事例に対してどこから介入していけば良いのか考えることができ、なかなか解決に至らないことへのもどかしさに押しつぶされずに済みます。
REFERENCES
参考図書
- 「保健、医療、福祉、教育にいかす 簡易型認知行動療法実践マニュアル」
大野 裕 (著), 田中克俊 (著) きずな出版 - 「認知療法で二度と太らない心と体をつくる:ベック式ダイエット練習帳」
ジュディス・S・ベック (著), 大野 裕 (監修) , 坂本 玲子 (翻訳) 創元社 - 「肥満の認知行動療法―臨床家のための実践ガイド」
ザフラ クーパー (著), デボラ・M. ホーカー (著), クリストファ・G. フェアバーン (著), 小牧 元 (翻訳) 金剛出版 - 「動機づけ面接法―基礎・実践編」
ウイリアム・R. ミラー (著), ステファン ロルニック (著), 松島 義博 (翻訳), 後藤 恵 (翻訳) 星和書店 - 「ケアする人の対話スキル」
堀越 勝 (著) 日本看護協会出版会
FOR FURTHER READING
推薦図書
- 「はじめての認知療法」
大野 裕 (著) 講談社現代新書 - 「保健、医療、福祉、教育にいかす 簡易型認知行動療法実践マニュアル」
大野 裕 (著), 田中克俊 (著) きずな出版